kintoneでワークフロー1.単純承認プロセス
単純承認プロセス
一番基本となる、シンプルな業務プロセスを設定してみましょう。
今回のレクチャーを通して、プロセス管理に関するkintone独自の用語や、考え方に慣れていきましょう。kintone初心者の方はぜひ自分でも手を動かしてみてください。
- 業務の流れを把握し整理する方法の基本を学ぶ
- プロセス管理の設定方法の基本を学ぶ
- プロセス管理に関する、kintone用語に慣れる
- プロセス管理に関する、kintone独自の考え方に慣れる
1.今回のケース
次の図(フローチャート)のように、申請者が提出した申請内容について、1人の承認者がそれを判断し承認する、というものです。
現実の業務においては、途中の確認プロセスが入ったり、承認者が差し戻しをしたりするケースも考えられますが、今回は初回なのでこの一番シンプルな業務プロセスをkintoneで表現してみることにしましょう。
いきなりkintoneを開く前に、フローチャートを元に対象となる業務プロセスを見直しながら整理することが必要です。
2.業務プロセスを整理する
フローチャートの整理
「自分の業務の流れをフローチャートに整理してください」とお願いすると、たいがい上の図のような形で作成されることが多いと思います。業務をフローチャートに表わす場合、上の例以外にもさまざまな書き方があります。フローチャートの形式もいろいろありますが、書き方の手法よりも、ここで注目するべきポイントは次の2点です。
①登場人物(プレイヤー)
この業務プロセスに登場するのは、申請する人(担当者)と、承認者の2種類の登場人物です。上の図は作業の順番を書いただけなので、それぞれの作業はどの人(部署)が行う業務なのかを表す必要があります。
先ほどのフローチャートに書き込んでみました。申請書を作成するのは担当者が行い、それを承認者に提出します。申請書の内容を確認して承認するのは承認者の業務となります。現在その業務を進める担当になっていることを、「ボールを持っている」という言い方をよくします。次の人に業務を渡していくことを、「ボールを渡す」というふうに表現します。
このように、「誰が(どの部署が)やる業務か」という観点で業務の流れをを整理します。
②工程の単位(メッシュ)
次にフローチャートの中の角丸長方形で表現されている、業務(または作業)に注目した見直しをします。ここでのポイントはまず、
- 作業:書類を作成する、集計をする等
- 業務:一連の作業をひとくくりにしたもの
- 連携:次の担当者(部署)に業務を引き渡すこと
を区別して考えることです。
上のフローチャートを例に見ていきましょう。
-
-
- 申請書作成
これはひとくくりの業務でもあるし、必要事項を記入するという作業でもあります。作る人によっては、①申請書作成→②内容チェック→③不備があれば①に戻る のように、作業の手順を詳しくフローチャートに書く場合もあります。
プロセス管理を設定するために必要な考え方は、1人の人が一連のまとまった複数の作業をする場合はまとめて考える、ということです。今回は「申請書を作成して提出する」というひとくくりの業務を、「起票」と表すことにします。 - 提出
これはできた申請書を承認者に送る、という「業務の連携」を表しています。実際には紙の帳票で手渡しされていたり、電子ファイルのフォーマットに記載してメールで送るなどの手段で、前の担当者から後工程の担当者に、情報が伝達されるという工程です。このような「連携」は、1つの枠で示すのではなく、箱と箱を結ぶ矢印で表現することにします。kintoneの操作上はボタンを押すことでステータスが次のステップに移動します。 - 承認
承認者が申請書の内容を確認し、承認するという行為を指しています。ひとくくりの業務を表していますのでこのままでオッケーですね。 - 承認完了
ここには特に業務があるわけではなく、承認が終わった状態を表していますので、「終了」と同じと見ることができます。
- 申請書作成
-
見直し後のフローは次のようなシンプルな形になります。作業の手順ではなく、業務の流れが表現されるようになりました。
おすすめフローチャート表記法
ここまでで、この業務に出てくる登場人物(プレイヤー)と、フローチャートに記載すべき業務の単位を整理してきました。
プレイヤー(部署や担当者)の違いと業務の流れを同時に表現するフローチャートの書き方にもいろいろありますが、ここでは次のような表現をすることにしましょう。
背景にあるボックスはスイムレーンと呼び、プレイヤー(部署や担当者)を表します。今回は担当者と承認者の2つのプレイヤーなので、箱を2つ配置します。担当者が申請書を作るとこから業務が始まります。業務プロセスのスタートと終了は、丸い記号で表現します。青い長方形は業務の中の各タスクを表しています。
今回使用したプロセス図の記法は、BPMNと呼ばれるものです。
業務プロセス図の書き方をもっと勉強したい人はこちらを参考にしてください:
kintoneのステータス切り分け
kintoneのプロセス管理では、業務プロセスが進んでいく各段階での状態を「ステータス」という言葉で表現しています。
業務フローを書いた段階では、そこには業務(タスク)が並んでいましたが、それを「この1件の業務は今、どういう状態(ステータス)なのか」というふうに整理する必要があります。
今回の業務では、スタートは担当者が申請書を作っている状態。次に承認者が承認を行っている状態。最後に、承認が終わり業務プロセスが終了した状態。という3つで表すことにします。これを先ほどのフローチャートに重ねてみましょう。
緑色の枠で囲んだのがステータスです。1つめは新しいレコードを作って申請書を作成している状態なので「作成中」でもいいですが、kintoneの1つめのステータスの初期状態は「未処理」となっていましたので、そのまま「未処理」とします。申請書の作成が完了したら、次のステータスの承認者へボールを渡します(【承認依頼する】ボタンで申請)。
次は「承認中」。承認者が申請内容を確認し、「承認」します。承認行為はkintoneではもちろん、ハンコなど使わずに、画面のボタン(【承認する】ボタン)を押すことで承認できるようになります。
承認が終わったら、業務的には完了です。最終ステータスは「完了」とします。
kintoneのプロセス管理におけるステータスは、「そのレコードが今どのような常態か」を表すものです。従ってステータスの名前も、『誰が何をしている状態なのか』がすぐ理解できる名称がふさわしいと思います。複雑な業務プロセスになればなるほど、ステータス名の付け方に工夫が必要になる場合があります。
3.プロセス設定に必要な項目を整理する
この流れを整理すると、次のようになります。この表の考え方が、プロセス管理を設定するときの基本的な考え方になります。
表 プロセス管理の設定内容
現ステータス | 作業者 | 条件 | ボタン名 | 次のステータス | |
1 | 未処理 | 担当者 | – | 「申請する」 | 承認中 |
2 | 承認中 | 承認者 | – | 「承認する」 | 完了 |
この表の解釈はこういうことです:
- ステータス:未処理 の作業者は「担当者」であり、「申請する」ボタンを押すことで、次のステータス:承認中 に移行する
- ステータス:承認中 の作業者は「承認者」であり、「承認する」ボタンを押すことで、次のステータス:完了 に移行する
- ステータス:完了 からは、他のステータスへの移行はない
業務をまずはフローチャート等で整理し、それをこの形にすぐ(頭の中で)変換できるようになることが、kintoneのプロセス管理マスターの第一歩となります。今後のレクチャーの中で、徐々に複雑な業務プロセスを取り扱っていきます。ぜひ自分の手を動かして、フローチャートからこの表の形式への変換をやってみてください。
これで業務プロセスの情報を、プロセス管理を設定するのに必要な形に整理することができました。次はkintoneを開いてプロセス管理の設定をしてみましょう。
4.プロセス管理を設定する
ここまでの作業結果で、kintoneのプロセス管理を設定することができます。
まず、テスト用に簡単なフィールド構成のアプリを作ります。次のようなシンプルな内容のアプリをサンプルとして使ってみましょう。
アプリのフィールドは、今回はプロセス管理の練習なので、最低限の項目:タイトル、内容の2つだけです。
上に「業務プロセス」というタイトルのグループフィールドが見えますが、無視してください。
①プロセス管理を有効化する
それではさっそく、プロセス管理を設定してみましょう。アプリの設定画面から、プロセス管理の設定画面を開きます。
始めに、一番上にある「プロセス管理を有効にする」チェックボックスをチェックします。
②ステータスを設定する
次に先ほど整理したステータスを設定します。今回は、未処理、承認中、完了の3つを設定します。
③プロセスを設定する
次に、設定したステータス間をどういうふうに移行するのか、を設定します。先ほど整理した表を参考にしながら、次の図のようにプロセスを設定してみてください。
設定すべきことは、次のとおりです。
①最初のステータス「未処理」(自動で設定)
アクション実行前のステータス:未処理
- 作業者
まずは作業者は無視して、その他の項目を設定してみましょう。設定方法は後ほど説明します。 - アクションの実行条件
ステータス移行のアクションボタンを表示させる条件や、フィールドの内容によって行き先のステータスを分岐させたい場合に使用します。今回は設定不要なのでそのまま「すべてのレコード」としておきます。 - アクション実行後のステータス
ボタンを押して、次に移行するステータスを指定します。「未処理」の次のステータス「承認中」を設定します。 - アクション名
アプリの画面に表示されるアクションボタンの名称を設定します。「承認申請する」等、これからやることが分かりやすい名称にしましょう。
②2段めのアクション実行前ステータス「承認中」
2列めのプロセスを設定します。
- 作業者、アクションの実行条件は初期表示のまま
- アクション実行後のステータス:「完了」
- アクション名:「承認する」
設定が終わったら、忘れずに「保存」ボタンを押して設定を保存し、アプリの設定画面の「アプリを更新」ボタンを押して反映させておきましょう。
次はkintoneアプリを動作させてみて、目的の動きをするか確認してみましょう。
5.アプリを動かしてみよう
プロセス管理の設定が完了しました。アプリにレコードを登録して、どのような挙動をするか確認してみることにしましょう。
①新規レコードを作成し、保存する
+ボタンから新規レコードを作成します。適当にフィールドを入力して保存します。
保存が完了すると、レコード詳細画面が表示されています。下図の赤い囲みの部分に注目します。
「ステータス:未処理」という表示があります。レコードを保存した直後は、最初のステータス:未処理でOKです。
フォームの上部には「承認依頼する」というボタンが表示されています。申請書の記入・保存が完了したら、このボタンを押して申請書の承認依頼をする、という流れでしたね。
②ステータスを進める
さっそく次に進めてみます。「承認依頼する」というアクションボタンを押し、実行ボタンを押すと申請が完了します。
表示された詳細画面のステータスの表示は「承認中」となり、ステータスが1つ進んだことがわかります。
今回は、プロセス管理のプロセス設定のときに「作業者」を設定しませんでした。作業者の設定をしない場合、誰が開いても図のように「承認する」ボタンが表示されることになります。
本来は、承認者の人を指定して、その人だけが承認ボタンを押せるようにしなければなりません。そのための設定は後で行います。ここでは承認者になったつもりで、ステータスを進めてみましょう。
承認が終わると、設定どおりステータスは「完了」となっています。
ボタンの表示とステータスの動きは、設定したとおりに動いているようです。
③ステータスの履歴を確認してみよう
ステータス表示の右にある「ステータスの履歴」という文字をクリックして開くと、そのレコードのステータスの履歴を見ることができます。誰がいつ申請して、誰がいつ承認したか、ここを見ると証跡を確認することができます。
表示される履歴データは、「日時 – 作業した人 – ステータス」です。
ここで、現在の表示内容を見て、「誰がいつ申請して、誰がいつ承認したか」が分かりやすいかどうか考えてみてください。
ステータスの名前が、承認中と完了では、今ひとつ分かりにくいですよね。申請という言葉も出てきませんし、承認したこともよくわかりません。そこで、ステータスの名前の付け方を少し工夫してみることにします。
ステータス名称の見直し
それでは、ステータスの名称を次のように修正してみます。(ステータスの名称変更は、アプリが運用されている途中でも変更可能です)
- 未処理: そのまま
- 承認中: → 「申請→承認中」に変更
- 完了: → 「承認済(完了)」に変更
変更が完了したら保存して、先ほどのレコードを開いて、ステータスの履歴がどのように表示されるか確認してみます。
先ほどと比べると、「誰がいつ申請して、誰がいつ承認したか」が分かりやすい表記になりました。
このように、実際にアプリを使う人や、後で履歴を管理する人から見て、どのような業務の流れだったのかを理解しやすい名称にしておくことが必要となります。同じ理由で、アクションボタンの名前も工夫してみましょう。
例)申請 → 「申請する」「○○に提出する」等
基本的なステータス間の流れは設定できました。次は「作業者」の設定を行い、承認者を規定できるようにします。
6.承認者を設定する
プロセス管理を設定する手順としては、ここまで紹介してきたように、まずは作業者を除いた設定で、各ステータス間の流れが目的どおりに設定できたかどうかを確認します。ここまでが大丈夫であれば、次は各ステータスの「作業者」を意識してプロセス管理の設定を見直していきます。
kintoneプロセス管理における「作業者」というのは、業務プロセスが次のステータスに移行するときに、「次の業務はあなたがやるんですよ」とボールを渡す先を決めるものです。そのレコードのあるステータスの作業者を指定した場合、次のステータスに進めるためのアクションボタンは、作業者にしか見えなくなります。各レコードにも「現在の作業者」として割り当てられていることが見えるようになります。
今回の設定内容
1.ステータス:未処理
最初のステータス「未処理」に設定する作業者は、「承認依頼する」ボタンを押せる人という意味になります。通常は、レコードを新規作成した人(作成者)がそのまま承認依頼することがほとんどだと思いますので、ここには「作成者」を設定しておきましょう。
最初のステータスの作業者は、「作成者」または「作業者を設定しない」のどちらかしかありません。「作業者を設定しない」にした場合は、レコードを新規作成・保存した人以外の人が、そのレコードを開いて承認依頼ボタンを押すことができることになります。
2.ステータス:申請→承認中
ここは「承認権限を誰に与えるか」「申請されたときに誰にボールを渡す(通知する)か」という考え方で設定します。作業者を設定する方法はいくつかあります。ここでは、このアプリを使うグループの中では承認者は1人に固定されるという前提で、承認者を直接ユーザー選択から指定する方法で設定してみましょう。
ユーザーを、組織やグループから選択して指定するやり方と、名前がわかっている場合は検索ボックスに名称の一部を入力して検索して絞り込んで選択する方法があります。
1人のユーザーを承認者として指定しました(ユーザー:承認者A)。
このとき、作業者のところに「次のユーザーから作業者を選択」というドロップダウンがありますが、ここは作業者を複数人設定したときに設定する必要がある項目です。今回は作業者を1人しか設定していませんので、このままにしておいてOKです。
承認者を設定して実行した結果
作業者の設定が終わりました。新規レコードを作って保存し、「承認申請する」ボタンでステータスを進めてみます。これまでは作業者を指定していなかったので、自分にも「承認する」ボタンが見えていましたが、今回の設定変更によってどうなったでしょうか。
「承認依頼する」 ボタンを押した時に、次のステータスでボールを渡す相手が見えています。
- 次のステータス:「申請→承認中」
- 次の作業者:「承認者A」(作業者を選ぶ、と書いてありますが一人しか設定していない場合は特に意味はありませんので、読み飛ばしてOKです)
実行ボタンを押してステータスを進めると、レコードの上部のステータスと作業者のところが、ちゃんと書き換わっています。
そして、自分以外の人に作業者が移ったため、先ほどは見えていた「承認する」ボタンが見えなくなっています。承認者Aのアカウントでログインして確認すると、きちんと「承認する」ボタンが表示されていることが確認できます。
今回のケースのように、プロセス管理の設定で、複数の人や部署が出てくる業務プロセスを設定した場合、役割ごとの設定が目的通り設定できているかどうか、自分ひとりでは確認しづらいことがよくあります。
そんな時の確認方法ですが、仲間がいる場合はその人を仮に役割に割り当てて、ロールプレイをしてみるのがおすすめです。できれば同じ場所で、「はーい、ステータス進めたよ。ボタンちゃんと表示されてる??」とかやり取りをしながら、確認作業を進めていきます。
自分一人でやらなければならない場合は、kintone開発環境などを使って、ダミーのアカウントを作り、それぞれのアカウントでログインして確認するか、またはブラウザーを何種類か使って別アカウントでログインして、それぞれ確認するのもいいと思います。
7.プロセス管理を設定した場合のレコード一覧
kintoneでアプリを開いた時に、最初に表示されるレコードの一覧画面がありますが、プロセス管理を設定した場合、自動的に「作業者が自分」という一覧が生成されます。一覧の表示順位も最上位になってしまいます。その他の一覧を優先的に表示させたい場合は自分で変更することが必要ですので、注意しておいてください。
プロセス管理設定直後は、自動で生成された一覧「作業者が自分」が最優先で表示される。
別に自分で作成した一覧を最上位に設定した例。
8.まとめ
- いきなりkintoneを設定し始める前に、業務プロセスをよく理解・整理することが重要
- kintoneプロセス管理に独自の「ステータス」を意識して業務プロセスを整理する
- 慣れないうちは、プロセス管理設定に必要な情報を、表形式にまとめてみるといい
- 最初は「作業者」を設定せず、全体の流れ(ステータス間の移動)を確認する
- 複数の人をまたいだ業務においては、役割分担をしながら設定内容が目的通りか確認する(ロールプレイ)